「跡地」。この響きがもの寂しく、また興趣をそそられるのは、そこに往来する人々の姿がありありと瞼に映し出されるからではないでしょうか。
江戸初期の趣きを残す「福本藩陣屋跡」
神崎南ICを下りて右手に3分ほど。神崎高校のすぐそばに、福本藩陣屋跡はあります。「陣屋」とは、ざっくり言うと、江戸時代に各藩の役所やお屋敷があった場所。福本藩は、約1万石を領有していたといいます。
姫路城を現在の形に大規模改築したことで知られる池田輝政の孫・政直から8代を数えましたが、明治維新を迎え廃藩。廃藩後に、別の場所にあった大歳神社が御屋敷跡に合築されました。
今も残る”元禄鳥居”をくぐると、雪見灯篭がチャーミングな池泉回遊式庭園が広がり、往時のようすが偲ばれます。
地名「福本」の由来
政直が陣屋を構えた本村は、当時「新土野村」と呼ばれていましたが、この地に幸せをもたらすようにと願いを込め、「福本」と改めたそうです。
まったく原形をとどめていませんが、未来に託す想いのほどが伝わってきます。
今日の一句
在りし日を 映す楓や 陣の跡
ありしひを うつすかえでや じんのあと
季語:楓(晩秋)
俳句における季節の境目は、基本的に「立春」「立夏」「立秋」「立冬」です。今年の立冬は11月7日。よって、今回が本年最後の秋の句になります。
秋を代表する季語でもある楓。 一説には、葉が蛙の手のように見えるため古くは「かえるで」と呼ばれ、それが転訛して「かえで」となったそうです。
一年ごとに生まれ変わる楓の葉。かつての賑わいを記憶にとどめているかはいざ知らず、初代藩主の想いを託され、今日も色鮮やかに客人を迎えています。
※俳句における季節区分については、現代の感覚とのズレを是正するべきという議論があります。ご興味のある方はどうぞ。
俳句の「春」いつまで? 四季に二つの基準|朝日新聞デジタル
1件のコメント