ポケットの指に揉まれし葉屑かな

冬は、寒い。

「古民家の冬」というテーマでよく挙げられるのが、『徒然草』の「家の作りやうは、夏をむねとすべし」という一節。

肖像権はクリアしています。
『徒然草』の作者・吉田兼好

その続きは、「冬は、いかなる所にも住まる(どんな所でも住める)」。

「そぉ~んな訳あれへんやろ~」と、ひびき師匠のツッコミが入りそうですが、要は、真夏に不快な思いをする住まいはどうにも耐えがたいが、冬は厚着するなど工夫次第でしのぐことができる、という考えです。

かつては炬燵や火鉢がメインの暖房器具。それもおそらくは補完的なもので、綿入れの袢纏など着るもので暖を取るということが必須だったのだと思います。寒さから逃れるというよりは、「寒さと向き合う」という姿勢だったのでしょう。

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火鉢を使うと、意外と部屋が暖まります。

「文明」が日本人にもたらしたもの

日本の国産ルームエアコンの登場は1950年代。戦後、「不快の回避」と「快楽の追究」に撤してきた日本人が手に入れた大きな宝物です。

一年を通じて、人が過ごす空間の気温を調整することができるようになり、もはやエアコンの無い生活は想像できなくなりました。(更に新しい技術が生まれる可能性はもちろんありますが)

ありがたい反面、一方でそれは、「秋めく風」や「春の息吹」といった、四季豊かな日本ならではの繊細な「美」に少しばかり気づきにくくします。

冬の寒さが厳しければ厳しいほど、春の訪れはひときわ感動的なものになるに違いありません。

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 人が集まると、あたたかい。

先日の棚田さんの結婚パーティーに出席して記憶がよみがえりましたが、私たち夫婦は、今年の3月に自宅で結婚パーティーを行いました。

普段は、ふすまや板戸で仕切りをしている母屋の4間。その仕切りを全て外し、鍋をお願いした地元の仕出屋さんにお借りしたテーブルと座布団を並べると、約50人収容の宴会座敷に様変わりしました。

間取りのフレキシブルさは古民家ならではです。

しかし、今年の3月といえば雪もちらつくほどの寒さ。それに加え、パーティーの1週間ほど前に生活部分の扉を全て外してしまったため、日中の母屋は凍てつく地獄となりました

当日も、念には念を入れて電気カーペットや電気ファンヒーターであらかじめ暖めておいたものの、座敷に入った瞬間に女の子が「寒いです・・・」と涙ながらに訴えてくる非常事態。

妻と顔を見合わせ「どうしよう・・・」と焦りましたが、だんだんと人が揃い、鍋に火をかけ始めると嘘のように暖かくなり、ほっと胸をなでおろしました。

「人が集まると、あたたかい」って、比喩ではなく、物理的な事実なんだと学んだ経験でした。

歌う妻。


今日の一句

ポケットの 指に揉まれし 葉屑かな

ポケットの ゆびにもまれし はくずかな

季語:ポケット(冬)

初案:ポケットの 指に揉まれし 枯れ桜

桜はもちろん春の季語ですが、「枯れる」が冬の季語となるため、上記にて句会で披露しました。

ところが、ノーマークの「ポケット」が実は冬の季語。カタカナ言葉も要注意です・・・(ちなみに、ラグビーも冬の季語だそうです)。

ちょっとお行儀は宜しくありませんが、道端で話していてもついついポケットに手を突っ込んでしまうこの季節。お年寄り特有の数珠つなぎトークが終わる頃には、ポケットの枯れ桜は、すっかり粉々です。

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