梅雨明けといいながら、なかなかすっきりしない空模様。
こんなときは、住まいの中が気になってきます。
今回は、古民家と「個室」について。
「田の字」の合理性と難点
古民家のつくりは、基本は「田の字」です。
つまり、上から見たときに、8帖1間×4間もしくは6帖1間×4間。
(わたしたちが暮らす旧蘆田邸の場合は、6帖が2間と8帖が2間の長方形「田の字」です。)
その4間が、壁ではなく障子やふすまで分けられているため、空間の可変性があることが特徴といえます。
むかしは法事や結婚式も家庭で行っていました。そのような大人数対応の際には、仕切りを外して大会場に変身。
また、夏場は仕切りを開け放して風を通し、冬場は板の仕切りを入れて生活空間をコンパクトにして熱が逃げるのを防ぐ、という季節対策も可能です。
フレキシブルさに富む古民家ですが、弱点もあります。
その柔軟性ゆえに、どこか1か所を「誰かの部屋」にするのが難しいということです。
「個」の概念と日本人の暮らし
文字や文学に親しんでいたからか、わたしは小さなころから「自分の書斎」に憧れをもっています。
築150年超の趣きを残すここ旧蘆田邸に移り住んだ当初、色んなレイアウトを妄想して「書斎はどうしようかなぁ~」とワクワクしていました。
ところが、じっさいに暮らしはじめるとなかなか部屋割りが定まらず、実はいまだに書斎と呼べる部屋がありません。
考えてみれば、「田の字」の中には廊下がありません。よって、完全に独立した空間がなく、いつどちらから「あのさぁ」と人が入ってくるか分からない状態なのです。
今でこそ、日本でも「こども部屋」が当たり前となっていますが、「家の中に個人の空間をつくる」という概念はヨーロッパ発祥で、一般市民のあいだで定着したのは18世紀ごろといいます。
まだまだ新しい文化なのです。
そういった意味では、日本人は古民家の暮らしを手放すまでは、「個」の意識が非常に希薄だったのではないかと思えてきます。
こどもが生まれても「●●さんとこのせがれ」。
子育ても、親対こどものマンツーマンの関係ではなかったのではないかと思います。(チームラボの猪子さんが、とあるフォーラムにて「こどもは、集団でいい加減に育てるべき」という面白い提言をされています)
どこまでいっても個人と家は切り離すことのできない関係。その象徴が、親の名前を一字継承するというごく最近までポピュラーだった名付け方かもしれません。
昨今流行の”キラキラネーム”は、言わずもがな、その逆の現象でしょう。
「こどもが生まれたら、思い切って古風な名前を付けようか」
なんて、時代に逆行するわたしたち夫婦のエゴでしょうか。
今日の一句
雨風を耳にあそびて籐寝椅子
あめかぜを みみにあそびて とうねいす
季語:籐寝椅子(夏)
蘆田家の蔵に遺されていた、籐(とう)の茎と表皮で作られた寝椅子。
軽量で涼しく、夏にぴったりです。
読書や句作の定位置となりつつある、家の中でもっとも明るく、外の景色も楽しめる縁側に置いてみました。
雨音に耳を傾けながら、しばし体を休めるのも大切なひとときです。