結ぶ掌の皺の深さや初紅葉

地域の先輩がたはまさに「生き字引」。

縄ひとつから豊かな世界が広がります。


生きる知恵を学ぶ ロープワーク篇

 

「なんぼでも教えちゃるからいつでも来い」

 

今年の晩夏ごろ、村でいちばんロープワークに詳しいと言われる長老と交わした約束。

 

映画のブロマイドになりそうな凛々しい眼差し、さりげないユーモア。

会話をしていると80歳余歳という年齢を忘れそうになりますが、やはりご高齢であることには違いありません。

「なるべくあったかい日が良いですよね?」

「せやのう、天気が良うてのぅ」


日時を定めない約束。

 

雨降り続き。

台風の接近。

気温の急下降。

 

「良い天気!」と思っても、わたしが仕事で動けなかったり伺っても不在だったり。

 

なかなか出会えません。

 

まるで、中国の伝記の仙人に会いに行く一幕のようです。


しかし、ついにチャンスが訪れました。

 

ちょっと暑いと感じるぐらいの、カンカン照りの秋晴れ。

打ち合わせや至急作業は無し。(来客はありましたが)

妻を軽トラの助手席に乗せ、ロープを手に出発しました。

 

家の外に人影は見えず、「今日もダメかな」と思いながら玄関先から声を張りました。

「●●さん、こんにちは〜!!」

すると、奥のほうから小さく声が聞こえました。

しばらくして、仙人が登場!

「あ、あの・・・今日、縄のこと教えてもらっても良いですか?」

「おぅ、来たか。ほな外出るわ」

ちょっとズッコケそうになるくらい自然体で、レクチャーが始まりました。


「まぁ、簡単な結びやったらこないな感じやな」

短く切った紐で、竹の棒に次々と結び目を作っていく仙人。

2つ目くらいから全く付いていけず、

「あの・・・、この結び方もう一回見せてもらえませんか?」

何度もリプレイを懇願してしまいました。

「これやるわ。解いたら結び方分かるやろ」とお土産に頂きました。残念ながら分かりません。

 

もやい結び男結びとっくり結びといったメジャー(?)な結び方のほか、わたしは軽トラ用のロープワーク、妻はペット用の結び方(詳細は近々発表します!)を特にリクエスト。

 

「人がしよんを見よう見まねで覚えたんや」

「どうやったかいな・・・あぁ、こうか」

手が覚えているのか、さまざまな結び方がするすると出てきます。

「ワサ(輪)を上から押さえるんや。そうせな抜けて動いてまうやろ」

「ここが効いとうから、なんぼ引っぱっても絶対ほどけへん」

結び方の手順自体でなく、原理で理解されているからこそ、忘れないし一生思い出せるのかもしれません。

 

「家帰って、よう復習してくんな」

たっぷりの愛情と、いたずらっぽい笑顔。

残像が消えないうちに、軽トラの背中であれこれロープを手繰りました。


今日の一句

 

結ぶ掌の 皺の深さや 初紅葉

むすぶての しわのふかさや はつもみじ

季語:初紅葉(秋)

色づきはじめた長谷の山々に囲まれて。

人生の知恵を学ぶ貴重なひとときでした。

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