遠雷に猫の眼の光りけり

田舎の暮らしは、動物たちの存在が身近にあります。

山口家の平和を乱す、思わぬ刺客が現れました。


難敵、現る。

 

「また猿に野菜盗られたわ」

「わしが見つけた時なんか、両脇に大根抱えて逃げよったで」

村の日常のひとコマです。

 

ここで暮らしていると、獣害は避けて通れません。

お天道さまの下で食べ物を育てているのだから、動物たちからすればシェアしてもらっているも同然なのでしょう。

 

こういった話題は猿と鹿アナグマあたりが常連です。

ところが、昨年から意外な名前を聞くようになりました。

それは、猫!

堂々と家に出入りして、残飯などを漁っていくという被害が聞かれています。

ただ、我が家では出会う機会がなく、どこか遠い存在だったのは事実です。


しかし、出会いはある日突然に。(昭和・・)

 

義母が滞在していた日のこと。

お土産に持ってきてくれたのが、姫路の老舗精肉店の極上焼き豚

田舎暮らしは自給自足的側面があるとはいえ、地元で手に入らない食べものの差し入れは大歓迎です(!)

 

ありがたく昼食に頂いたのですが、皿に盛られた焼き豚の量を見ると

「ちょっと少ない・・・?」

実は、1食で食べきるのがもったいないと思った妻が夕飯用に半分キープしていたのでした。


夕飯どき。

「あれ?無い・・・無い〜〜!!」

母屋のキッチンから妻の悲鳴が聞こえてきました。

「焼き豚が無いんや!!」

急に不可解なことを言い始めた妻に対して、義母と私はキョトン。

 

「奈央ちゃん、食べたんちゃうん?」

 

「奈央、、食べたやろ」

 

今思えばあまりに心ない反応でしたが、トレーごと消えたとなればミステリー。

首をかしげながらも捜索が始まりました。

 

3人で家の中をあちこち探すこと約10分。

まったく見当たりません。

 

「いくらなんでも、こんなことあるかな・・・」

 

「あ!」

 

わたしの中の第六感が働きました。

 

 

実を言えばこの時点でも、

①焼き豚を残したつもりが残していなかった

②食べてしまった

という疑惑を捨てきれないわたしでしたが、妻の行動パターンを想像。

「一時的に、生ゴミの袋を一時的に窓の外に置いたのではないか」

そう思って覗いてみたところ、

なな、なんと!

見覚えのあるトレーが、からっぽの状態で地面に落ちていたのです。

少なくとも、妻の潔白が証明された瞬間でした。


「鹿はありえない。猿ならもっと荒っぽくやりそう。となると、アナグマ・・・?」

3人であれこれ議論しましたが、この日は結局犯人が分からずじまい。

容疑者は、翌日の昼間に姿を見せました。

 

事務所の裏口を開けた瞬間、母屋の玄関戸の隙間からスルスルっと動く影。

 

正体は、白黒模様の(顔はかわいい)でした。

 

「この・・・ドロボウ猫!!」

決めつけも良いところですが、猫であればすべて説明がつきます。

こちらが前傾姿勢になった瞬間、ムチのように体をしならせながら猫は裏山のほうへ走り去って行きました。

 

顔を合わせたのはそれっきり。

反省した山口夫婦が、敷地内にいる時でも玄関や勝手口の戸をきっちり閉めるようになったのは言うまでもありません。

 

山口家の生活に影響を与えた1匹の猫のお話でした。


今日の一句

 

遠雷に 猫の眼の 光りけり

えんらいに ねこのまなこの ひかりけり

季語:遠雷(夏)

空が割れるような雷鳴と大雨の中でこの記事を書いています。

雷が鳴るたび、キラリと光るあのまなざしが眼に浮かびます。

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