手は生きている。
※書き下ろし
「指がきれいですね」
かつては、女性によくそう言われていてちょっとした自慢でした(痛い)
だけど、今の生活に飛び込んでからは、「これは百姓の手ちゃうのぉ」と笑われる、コンプレックスのひとつ。
一方で、特に夏の農繁期はつい素手で作業してしまい、指が荒れる。小さな傷が重なる。
「百姓でもないし、都会のデスクワーカーでもない」手ができあがってしまいました。
そんな自分の手の変化をマクラ(導入)にしつつ、今回の一句へ。
思考と表現の軌跡 |実感を伴う季語と、実体験。
「暦は秋になったけれど、まだ暑い」
すべての日本人が、高い粒度で分かち合える感覚ではないかと思います。
ぼくの場合は、稲刈りの時期が、まさにこれ。
農作業のファッションはいまだに正解が見えないけれど、胸のポケット、特にファスナーつきのものは、トラクターの鍵を入れたり現金や玄米の引取票を入れたりと何かと重宝します。
少し汗ばむ胸ポケットに、預かったお札を折りたたんで入れたときのこと。
ふと
「東京時代、胸ポケットにお金入れたことあったかな」と思いました。
もしかしたら、今の生活を象徴するもののひとつかもしれない。
そこから一息で、ふっとできあがった句でした。
あまり推敲も加えていないし、形が変わる予感もない。
地味。
だけど、随時入れ替わる自分の俳句プレイリスト的なものがあれば、とりあえず入れておこうかと思うことが多そうな、めちゃくちゃ良く言えばクラシック音楽の小品のような一句です。
脱線コラム|ブラックバード
僭越ながら「クラシック音楽」なんて書いて、思い出したエピソード。
ビートルズの名曲『ブラックバード』について。
ギターを弾く機会はめっきり減りましたが、いまだに指が覚えていて、Gから始まるイントロからポロポロと弾くことがあります。
和音の移りが素晴らしく、何度聴いても飽きません。
そんな完成度高い楽曲が、バッハのリュートの弾き間違いから生まれたというマニアの間では有名な逸話があって、
「ほんまかいな」
と思っていたのですが、先日ショート動画で本人の解説映像が流れてきました。
本当だったんですね…。
便利な時代です。青春期、お目当てのMVを見るには、テレビにかじりつくかお金を使うしかありませんでした。
さいごに|着想の種
実は今回の記事、ぼくをよく知るMさんから「貴士くん、手の保湿してる?」と言われたのがきっかけ。
先日コワーキングスペースで開催した知人(くまのひでのぶ氏)の個展の際に、資料を渡したときにそう質問されて、答えに困りました。
「いえ、どうしても土や草をさわるので、荒れちゃって、、、ちょっと諦めてますね」と言ったら、「それは、ぜったいケアしたほうがいいよ!手をきれいにしたら、気持ちが変わるから」と熱く諭され、それ以来ハンドクリームを塗り続けています。
その方のおっしゃる通り、こまめに塗ると、ささくれやかぶれが少しずつマシに。
たしかに、気分も変わる。
他人はもちろん、自分も、「仕事をする手」は良く見ているものです。
仕事や生き方は人それぞれ。節張ってたくましいものではなくとも、華奢なのに無理しているこの手を大事にしていこうと思ったことが執筆と句の選定につながりました。Mさん、いつもありがとうございます。
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秋暑し胸ポケットの千円札
あきあつし むねポケットの せんえんさつ
季語:秋暑し(秋)
